大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

岡山地方裁判所 平成5年(行ウ)15号 判決

岡山市森下町七番地の九

原告

桑田博

岡山市津山市田町一七番地の六

原告

木村貞子

右両名訴訟代理人弁護士

板野尚志

板野次郎

岡山市天神町三番地二三号

被告

岡山東税務署長 藤井成行

右指定代理人

吉田尚弘

徳岡徹弥

大本哲

永井行雄

伊奈垣光宏

清水利夫

小林重道

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

被告が原告らに対し平成元年一一月一〇日付でした昭和六三年五月一一日相続開始に係る相続税の更正処分のうち課税価格一億五五三八万九〇〇〇円、納付すべき税額四二二九万六三〇〇円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二主張

一  請求原因

1  処分等

原告らの父である桑田真太郎は昭和六三年五月一一日に死亡して相続が開始した。

これにより、原告らは被告に対し右相続について昭和六三年一一月一〇日課税価格を一億四九八二万九〇〇〇円、納付すべき税額を五一五三万五〇〇〇円とする申告をし、平成元年三月三〇日課税価格を一億四五八〇万四〇〇〇円、納付すべき税額を三八二二万二四〇〇円とする更正の請求をし、被告は原告らに対し同年四月五日右更正の請求に沿う更正処分をした。

次いで、原告らは平成元年五月二九日課税価格を一億五五三八万九〇〇〇円、納付すべき税額を四二二九万六三〇〇円とする修正申告をし、被告は原告らに対し平成元年一一月一〇日課税価格を二億一七二〇万八〇〇〇円、納付すべき税額を七一八六万六〇〇〇円とする更正処分(以下「本件更正処分」という)及び過少申告加算税二九五万七〇〇〇円の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という)をした。

本件更正処分及び賦課決定処分について、原告らは広島国税局長に対し平成元年一二月二八日異議申立をし、同局長は平成二年三月二七日右異議申立を棄却する旨の判決をした。

さらに、原告らは国税不服審判所長に対し平成二年四月二四日審査請求をし、同所長は平成五年三月二三日右審査請求を棄却する旨の裁決をした。

2  違法性

〈1〉 本件更正処分

桑田真太郎の死亡による相続開始当時同人名義の株式会社中国銀行の株式二二万一〇〇〇株(相続税評価額四億三九七九万円)並びに右株式にかかる新株無償交付期待権(同四三九七万九〇〇〇円)及び配当期待権(同五三万〇四〇〇円)が存し、同人が理事長を務めていた岡山相互信用金庫は同人の死亡後相続人らに対し弔慰金六四二万円を支給した。

被告は右株式等が全て相続財産であること及び右弔慰金が相続税課税対象たる退職手当金であることを前提に本件更正処分をした。

しかし、右株式等のうち一〇万七三三一株(相続税評価額二億一三五八万八六九〇円)並びに右株式にかかる新株無償後退期待権(同二一三万八六七〇円)及び配当期待権(同二五万七五九五円)は原告桑田の固有財産であり、相続財産ではなく、また、右弔慰金は相続税の課税対象にならない。

したがって、本件更正処分は誤った事実を前提にした違法なものである。

〈2〉 本件賦課決定処分

被告は原告らが前項第三段の株式等を相続財産に含めないで相続税の申告をしたことを理由に本件賦課決定処分をした。

しかし、右株式等は原告桑田の固有財産であり、本件更正処分は違法であるから、本件賦課決定処分も違法である。

仮に、本件更正処分が適法であるとしても、原告らは相続税の申告に先立ち被告担当職員に対し右株式等が相続財産に含まれるか否か相談し、相続財産に含まれないと解して差し支えないとの見解を受け、その指導に従って資料を添付して申告した。

したがって、原告らは被告担当職員の誤った指導によって申告をしたものであるから、国税通則法六五条四項の正当な理由があるものというべきであり、本件賦課決定処分は違法である。

3  結論

よって、原告らは被告に対し本件更正処分及び賦課決定処分の取消を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1は認める。

請求原因2〈1〉のうち、桑田真太郎の死亡による相続開始当時同人名義の株式会社中国銀行の株式二二万一〇〇〇株(相続税評価額四億三九七九万円)並びに右株式にかかる新株無償交付期待権(同四三九七万九〇〇〇円)及び配当期待権(同五三万〇四〇〇円)が存したこと、被告は右株式等が全て相続財産であること及び原告ら主張に係る岡山信用金庫の相続人らに対する支給金六四二万円が相続税課税対象たる退職手当金であることを前提に本件更正処分をしたことは認め、その余は争う。

請求原因2〈2〉のうち、被告は原告らが請求原因2〈1〉第三段の株式等を相続財産に含めないで相続税の申告をしたことを理由に本件賦課決定処分をしたことは認め、その余は争う。

被告担当職員が右株式等が相続財産に含まれないとの確定的見解を示したことはない。相続税の申告は元来納税者自身の判断と責任においてなされるべきものであり、事前に所轄税務署の担当職員が納税相談に応じたとしても、それは性質上納税申告の参考に供するための一応の指針を提供するにすぎないものであるから、右相談担当職員の言があったからといって納税申告における納税義務者としての責任を免れることができるものではない。原告らについて国税通則法六五条四項の正当な理由は存しない。

三  抗弁(違法性)

1  株式等

請求原因2〈1〉第三段の株式等は被相続人である桑田真太郎の遺産に属する。

2  退職金及び功労金

桑田真太郎が理事長を務めていた岡山相互信用金庫は同人の死亡後相続人らに対し退職金及び功労金として五八九六万円(原告主張の六四二万円を含む)を支給した。

3  まとめ

前記1の株式等は相続税の課税対象財産であり、前項の退職金及び功労金は相続税法三条一項二号のみなし規定より課税対象となるから、本件更正処分は適法である。

四  抗弁に対する認否

抗弁1は争う。

請求原因2〈1〉第三段の株式等は次のとおり原告桑田の固有財産である。すなわち、昭和二三年当時同原告は家業の酒造業を営む合資会社志保屋(後に一福酒造合資会社、無限責任社員桑田真太郎)の実質的経営者であったが、同年九月取引先の株式会社中国銀行の依頼により金融機関再建整備法に基づく増資による新株受入をすることとなり、同銀行に対し同原告名義で新株二〇〇〇株を申し込み、代金一〇万円を先払し(真太郎には支払能力はなかった)、同銀行職員小坂田豪夫からその株券の交付を受け、父真太郎方の金庫に入庫しておいた。当時真太郎は名目上は合資会社志保屋の代表者であったが、実質的にはその経営を同原告に任せ、昭和二二年には市議会員に、昭和二三年には岡山相互信用組合(岡山相互信用金庫の前身)の組合長に、昭和二六年には県会議員になるなど公的職務に専心していたところ、同原告が自宅の金庫に株券を入庫していたのを奇貨として同原告に無断で昭和二四年四月一日までに中国銀行をして右株式二〇〇〇株のうち一〇〇〇株を自己名義に五〇〇株を二男桑田昭名義に書換させた(仮にそうでないとしても、同原告に無断で中国銀行に働きかけて真太郎名義の一〇〇〇株、同原告名義の五〇〇株、桑田昭名義の五〇〇株の各株券を発行させ、同原告はこれを受領した)。その後右株式については別紙「原告持株の推移一覧表」のとおり昭和三一年一二月及び昭和三五年三月一日増資がなされた(なお、同原告は後者の増資の直前に一福酒造合資会社から借入金の返済として二〇万円の支払を受け、これを増資の払込金全額一八万四〇〇〇円に当てたことが、保存されている総勘定元帳(甲第七号証)及び株式払込受付票(甲第九号証)により確認できる)が、昭和三七年五月一八日真太郎は同原告に無断で同原告及び桑田昭名義の中国銀行の株式各二三〇〇株(合計四六〇〇株)を真太郎名義に登録変更し、同銀行からの連絡ではじめて同人の無断名義書替に気づいた同原告が株式の返還を要求したところ、真太郎は岡山の経済界における発言権を維持する上で中国銀行の株式を多数所有することが有益であるなどと理由を付けて返還の猶予を求めたので、同原告はこれを容れ、結局真太郎と同原告との間において当分の間真太郎が右株式を管理し、株主割当新株発行の際の引受をし、右引受資金には右株式からの配当金を宛て、その不足あるときは立て替え、その保有の必要がなくなったときは同原告に返還する旨の合意が成立し、以後別紙「原告持株の推移一覧表」のとおり真太郎が右株式を保管管理して推移した。したがって、真太郎の死亡当時同人名義の株式会社中国銀行の株式二二万一〇〇〇株(相続税評価額四億三九七九万円)並びに右株式にかかる新株無償交代期待権(同四三九七万九〇〇〇円)及び配当期待権(同五三万〇四〇〇円)のうち一〇万七三三一株(相続税評価額二億一三五八万八六九〇円)並びに右株式にかかる新株無償交代期待権(同二一三五万八六七〇円)及び配当期待権(同二五万七五九五円)は原告桑田の固有財産であり、これを相続財産であるとして課税するのは違法である。

抗弁2のうち、岡山相互信用金庫が桑田真太郎の死亡後相続人らに対し五八九六万円を支給したことは認めるが、その余は争う。

右支給金のうち六四二万円は弔慰金である。すなわち、岡山相互信用金庫が右支給を決めた昭和六三年八月九日時点において同金庫には役員の退職金、慰労金、弔慰金の支給根拠となる規定は存在していなかったため、同金庫の理事会は支給額の決定に恣意がないようのとの配慮から職員との均衡をも考えて職員用の退職金規程に準拠して桑田真太郎に対する支給額を決定した。右は要するに「現役で死亡した会長に死亡に起因して金銭を贈呈する」趣旨によるもので、当然に弔慰金との趣旨をも含んでいたものである。この点は後日金庫が証明している(甲第一四号証)。

右支給決定の際の理事会議事録(乙第八号証)には「退職金・功労金」なる表現が見られるが、右職員用の退職金規定の用語をそのまま使ったもので、必ずしも適当ではなかった。同金庫では平成元年一月の理事会においてこれらの趣旨を明示するため役員退職慰労金規定(甲第一一号証)を新たに定め、弔慰金を死亡時の報酬月額の六か月分とする旨明示した。したがって、前記六四二万円については理事会議事録に「弔慰金」との明示がなかったとしても、当然にその趣旨を含んでいたのであるから弔慰金として扱うべきであり、表現如何によって課税したり非課税としたりするのは平等原則に反する。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  処分等

請求原因1は当事者間に争いがない。

二  適否

1  本件更正処分

請求原因2〈1〉のうち、桑田真太郎の死亡による相続開始当時同人名義の株式会社中国銀行の株式二二万一〇〇〇株(相続税評価額四億三九七九万円)並びに右株式にかかる新株無償交代期待権(同四三九七万九〇〇〇円)及び配当期待権(同五三万〇四〇〇円)が存したこと、被告は右株式等が全て相続財産であること及び原告ら主張に係る岡山信用金庫の相続人らに対する支給金六四二万円が相続税課税対象たる退職手当金であることを前提に本件更正処分をしたことは、当事者間に争いがない。

〈1〉  株式等

甲第一、第二、第三二号証、乙第四乃至第六号証、第九、第一〇号証、原告ら各本人尋問の結果(各一部)並びに弁論の全趣旨によれば、桑田真太郎(明治二七年三月一九日生)の昭和六三年五月一一日死亡当時同人名義の株式会社中国銀行の株式二二万一〇〇〇株(相続税評価額四億三九七九万円)並びに右株式にかかる新株無償交付期待権(同四三九七万九〇〇〇円)及び配当期待権(同五三万〇四〇〇円)が存したこと、右株式のうち当初昭和二四年四月一日取得に係る二〇〇〇株のうち一〇〇〇株は同人名義で、五〇〇株は長男である原告桑田名義、五〇〇株は二男である桑田昭名義であったが、同原告及び桑田昭名義の合計一〇〇〇株は昭和三七年五月一八日真太郎名義に変更され、以後別紙「原告持株の推移一覧表」の「名目持ち株数」欄のとおり増資、他からの取得、端株売却等を経て死亡時を迎えたこと、真太郎名義の中国銀行の株式については株券の占有管理、増資の際の払込金の調達振込等は終始同人によって行われて来ており、その配当金は同人の銀行預金口座に振り込まれて同人が受領し配当所得は同人の所得として申告され続けてきたこと、以上のとおり認められ、右認定事実によれば、特段の事情でもない限り右真太郎名義の株式は同人の遺産と認めるのが合理的である。

原告木村本人の尋問の結果によっても、真太郎は死を直前にした昭和六三年四月末頃入院先の病院において計算するような様子を見せた後原告木村に対し「中銀二億 株 貞子へ」とメモして手渡し、丸山ムツオ(真太郎の長女丸山美智子の子で代襲相続人)のためにも「中銀二憶」とメモしたこと、この行為について同原告は真太郎が同原告及びムツオに対し中国銀行の株式をそれぞれ二億ずつ与えたいとの意向を示そうとしたのであろうと推測したことが認められ、右二億は株数と解するには不自然であるから、二億円の趣旨と解するのが相当であるところ、右メモの合計四億を四億円の趣旨と解すれば、真太郎名義の中国銀行の株式二二万一〇〇〇株の相続評価額四億三九七九万円に近似しており、これによれば、同人は右株式すべてが自己のものであるとの前提でこのような行為に及んだのではないかとの推定が成り立つ。

原告らは抗弁に対する認否第二段のとおり請求原因2〈1〉第三段の株式等が原告桑田の固有財産であり、相続財産ではないと主張する。

しかし、まず、右株式の当初分を取得した昭和二三、四年当時家業の実質的経営者は原告桑田で、真太郎は名目上の代表者にすぎず、株式の取得代金の支払能力を有していなかったとする点については、同原告本人尋問の結果中にはこれに沿う部分があるけれども、裏付けに乏しい上に、同尋問結果によれば、真太郎は戦後市会議員、岡山相互信用組合の組合長、県会議員等の公的職務を歴任し、昭和二九年まで一福酒造合資会社の無限責任社員の地位にあったことが認められ、右認定事実や当初の株式取得の昭和二四年当時の真太郎(五五歳)及び同原告(二七歳)の年齢等に照らすと、右供述は直ちには採用し難い。

原告らの主張のうち、原告桑田が当初取得の株式を引き受けて株券の交付を受け、真太郎方の金庫に保管していたところ、後に同人がこれを奇貨として同原告に無断で中国銀行をして右株式二〇〇〇株のうち一〇〇〇株を自己名義に五〇〇株を二男桑田昭名義に書換させたとする点については、同原告任本人尋問の結果中には同原告は同銀行から同原告名義の二〇〇〇株の株券を受領し、その際同原告名義であることを確認して金庫に入れた旨明言する供述があるけれども、乙第九、第一〇号証並びに弁論の全趣旨によれば、中国銀行は昭和二四年四月一日に右二〇〇〇株の株券を発行し、右株券の名義人表示は当初より一〇〇〇株が真太郎、五〇〇株が同原告、五〇〇株が桑田昭となっていたことが認められ、これに照らすと、右供述は採用の限りではない。この点について、原告らは予備的に真太郎が同原告に無断で中国銀行に働きかけて真太郎名義の一〇〇〇株、同原告名義の五〇〇株、桑田昭名義の五〇〇株の各株券を発行させ、同原告が受領したとも主張するが、同原告の右供述に反するほか、全く裏付けを欠き、また、主張のとおりだとすれば、なぜ受領の際それに異議を述べなかったのか(別途原告らが主張するとおり昭和三七年五月の後に真太郎の無断書替にはじめて気がついたとすれば、右受領の際気がつかなかったことになるが、何故気がつかなかったのか、前記株式名義を確認した旨明言する同原告の供述に照らしても)不自然であり、容易に採用し難い。

原告らの主張のうち、昭和三五年三月一日の株式の増資の際、払込金全額一八万四〇〇〇円を原告桑田が直前に一福酒造合資会社から引き出した二〇万円で賄ったとの点については、なるほど、甲第七号証によれば、右会社の元帳には同年二月一日同原告が右会社から二〇万円の払出を受けた趣旨の記載がなされていることが認められ、甲第九号証によれば、同原告は中国銀行が同月一一日付で同原告宛に発行した一一五〇株の新株式申込受付票を所持していることが認められるが、一一五〇株は別紙「原告の持株の推移一覧表」のとおり、当初原告名義で取得した五〇〇株に対応するものであるにすぎず、同原告が当初取得の真太郎及び桑田昭名義の合計一五〇〇株に対応する新株式申込受付票を所持している形跡はないことからすると、右甲第七、第九号証によって認定できる事実のみでは、未だ同原告の払い出した二〇万円が増資分の全部の払込金に使用されたことの裏付けとしては十分とはいい難く、ましてや取得した株式全部が同原告の固有の財産であったことを裏付けるに足りるものともいい難い。

原告らの主張のうち、桑田真太郎が原告桑田に無断で昭和三七年五月一八日同原告及び桑田昭名義の株式各二三〇〇株(合計四六〇〇株)を真太郎名義に登録変更し、このときはじめて同原告が真太郎の無断名義書替に気づいたとする点についても、前記昭和三五年の増資の際の同原告名義の取得株数表示の新株式払込受付票の存在等からすると、同原告は当初の取得株式の一部が自分以外の名義になっていることを容易に知り得る状況にあったと認められることなどからして、容易に採用し難い。

さらに、その際、真太郎と同原告が話し合って、真太郎が岡山の経済界における発言権を維持する上で中国銀行の株式を多数所持することが有益であるなどと理由を付けて返還の猶予を求めたので、同原告はこれを容れ、結局、当分の間真太郎が右株式を管理し、株主割当新株発行の際の引受をし、右引受資金には右株式からの配当金を宛て、その不足あるときは立て替え、その保有の必要がなくなったときは同原告に返還する旨の合意が成立したとする点については、同原告がそうであったと言うのみで、全く裏付けとなるものがないほか、乙第四乃至第六号証、第九、第一〇号証、同原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、昭和三七年五月一八日の書替によって真太郎の中国銀行の持株数は九二〇〇株となったが、同銀行の総株数が一二〇〇万株であったことが認められることからすると、真太郎が無断名義書替の理由として岡山の経済界における発言権を維持するために持株数を増やしたいなどと言ったとの点についても些か信憑性に疑問がある。

以上のとおりであるから、真太郎名義の株式等を原告桑田の固有財産であると認めるべき特段の事情も見いだし難いから、右は真太郎の遺産と認めるのが相当である。

〈2〉  退職金及び功労金

抗弁2のうち、岡山相互信用金庫が桑田真太郎の死亡後相続人らに対し五八九六万円を支給したことは、当事者間に争いがない。

乙第八号証並びに弁論の全趣旨によれば、真太郎の死亡日である昭和六三年五月一一日開催の岡山相互信用金庫の理事会において同人の葬儀を同金庫によるいわゆる金庫葬とし、その負担費用は概算二〇〇〇万円とする旨の了承がなされ、同月二一日同葬儀が執り行われたこと、同年八月九日開催の岡山相互信用金庫の理事会において同人の退職金支給についての審議がなされ、退職給与支給規定に基づいて退職金三五二〇万円、功労金二三七六万円、総額五八九六万円を支給する旨の了承がなされ、さらに、右金庫葬を予定内の一八三一万四六八八円の費用負担で執り行った旨の報告について了承がなされたことが認められる。

右認定事実によれば、桑田真太郎の死亡により相続人らが岡山相互信用金庫から支給を受けた五八九六万円は退職金及び功労金であったことが明らかであり、右はすべて相続税法三条一項二号により課税対象となるものというべきである。

原告らは抗弁に対する認否第四段のとおり右支給金五八九六万円のうち六四二万円は弔慰金であると主張するが、前記認定の昭和六三年八月九日の理事会の審議内容結果並びに真太郎の葬儀がいわゆる金庫葬とされて同金庫が一八〇〇万円余の費用負担をしていることなどに照らすと、前記支給金はその支給の際弔慰金として趣旨を含むものではなかったものと認めるのが相当である。なるほど、甲第一一、第一四号証、乙第八号証、原告桑田本人尋問の結果によれば、原告桑田が理事長の地位にある岡山相互信用金庫は真太郎の死後昭和六三年一〇月一四日右支給金五八九六万円のうち四六二万円が弔慰金である旨の証明書を作成し、平成元年一月には弔慰金の支給基準を定めた同年二月一日実施の役員退職慰労金規程を新たに定めたことが認められるが、いずれも同金庫の理事長である同原告の本訴相続問題に絡んで後日便宜作成されたものである疑いが濃く、これをもって前記認定を覆すにたりるものとはなし難い。また、右支給金五八九六万円に弔慰金としての趣旨が含まれるものでない以上、原告主張の平等原則違反も認められない。

〈3〉  まとめ

以上によれば、前記〈1〉の株式等は相続税の課税対象財産であり、前項の退職金及び功労金は相続税法三条一項二号により課税対象となるから、本件更正処分は適法と認められる。

2  本件賦課決定処分

原告らは請求原因2〈2〉のとおり主張するが、右主張のうち本件更正処分の違法を前提として本件賦課決定処分を違法とする点は前項のとおり本件更正処分が適法であるから理由がない。

次に、本件賦課決定処分について原告らが被告担当職員の誤った指導によって申告をしたものであるから、国税通則法六五条四項の正当な理由があるとの点については、元来納税者は自己の判断と責任において申告すべきものであり、事前に所轄税務署の担当職員が納税者からの相談に応じたとしても、それは事の性質上納税申告の一応の指針を提供するいわゆる行政サービスにほかならず、納税者に対する何らの強制力も拘束力もなく、これに従うか否かは納税者の判断に任されるべきものであるから、担当職員がことさら強制誤導をするなどの特別の事情のない限り、納税者が事前相談を経たことを理由に申告における納税義務者としての責任を免れるものではないというべきところ、証人三宅修の証言及び原告桑田本人尋問の結果によれば、原告らは相続税の申告に先立ち被告側担当職員に対して桑田真太郎名義の株式等のうち請求原因2〈2〉第三段の株式等が同人の遺産ではなく、同原告の固有財産といえるのではないかなどと相談を持ちかけ、その際右職員がその裏付けとなるような書類を添付する必要がある旨示唆したことは認められるが、右職員が原告らの見解を積極的確定的に支持保証し、その旨の申告をすることを奨励強要したなどの事情は一切なかったことが明らかであるから、国税通則法六五条四項の正当な理由があったことは認められない。したがって、右主張は理由がない。

三  結論

以上によれば、原告らの請求はいずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 矢延正平 裁判官 白井俊美 裁判官 藤原道子)

原告持株の推移一覧表

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例